1.豆本の大きさは?
豆本の大きさについては、色々な説がありますが、本の長辺が3インチ(76ミリ)以内のものを指すことが多いようです。
なかでも天地左右ともに10ミリ以内のものは「マイクロブック」と呼ばれます。
印刷技術の発達にともない、どれだけ小さな本を作ることができるかが競われ、2000年には凸版印刷が電子ビームによる製版技術を駆使して、0.95×0.95ミリという驚異の小ささを誇る豆本『十二支』を作りました。
この本は16頁からなり、十二支の図とその名前が平仮名と英語とで印刷されています。
しかし、あまりに小さくて手で頁をめくれず、肉眼で文字を読むこともできないものは、「本」というには抵抗があります。
豆本づくりの本として古典ともいえる、岡野暢夫さんの『豆本をつくる』(創和出版、1987年)には、次のように書かれています。
「豆本といっても、一冊の本である以上、本書では肉眼で読めることを考えてB9判(45×64ミリ)ぐらいを一応の目安としました」
豆本は確かに「小さいこと」が条件ではありますが、それにしてもやはり、「肉眼で読める大きさの文字で書かれた書物であること」も同時に、その条件にしたいところです。
2.豆本を指す言葉
豆本にも色々な呼び方があります。
「雛本(ひいなぼん)」(江戸時代)、「芥子本(けしぼん)」(16×15ミリ)と言われるほか、中国由来で「袖珍本(しゅうちんぼん)」(袖に入れて持ち歩ける本)、「巾箱本(きんそうぼん)」(南斉時代の衡陽王が、小型の写本で『五経』を作らせ、巾箱に入れて持ち歩いたことからついた)などの呼び名があり、英語では「miniature book」「midget book」「bijou book」「liliput edition」などとも呼ばれます。
それぞれ、「どのように小さいか」を示す表現の違いによって、様々な名称が生まれました。
3.「まめほん」か、「まめぼん」か
年配の古本屋さんなどで、「まめぼん」と呼ぶ人が多いようです。
しかし、辞書類を見ると、『世界大百科事典』(平凡社、1988年)、『広辞苑』第6版(岩波書店、2009年)、 そして書物に関する辞典として『日本古典籍書誌学辞典』(岩波書店、1999年)、『図書学辞典』(三省堂、1979年)、 『日本書誌学用語辞典』(雄松堂書店、1982年)、『出版事典』(出版ニュース社、1971年)のすべての本で、見出し語は「まめほん」です。
「まめほん」という発音が多くなったのは、田中が考えるに、次のような要因からではないかと思います。
「ま」も「め」も「ぼ」も、音韻学では「両唇音(りょうしんおん、発音する際に上下の唇が触れ合う音)」と呼ばれる音になります。
「まめぼん」と早口で10回言ってみるとおわかりのように、口が大変疲れます。
両唇音を3度も連続して発音するのはしづらいのです。そこで、最後の音を「ほ」で発音する人が増えたのではないでしょうか。
「まめぼん」と発音しても間違いではありません。好きなように言えばよいのです。
4.豆本はいつからあるの?
豆本の歴史について記した大著『Miniature Books: 4,000 Years of Tiny Treasures(豆本―小さな宝石の4000年)』によると、最古の豆本は古代メソポタミアの粘土板だと書かれています。
粘土板を「本」と称してよいか疑問もありますが、いずれにしても初期の豆本は、愛玩物というよりは、実用性から生まれたものであるに違いありません。
つまり、聖書や祈祷書などの内容で、旅行などに持ち歩く便を考えて小さく作られたのです。
日本最古の豆本は『百万塔陀羅尼』です。
奈良時代に100万作られ、小さな塔に収められて全国の10の寺に奉納されました。
陀羅尼の形状には何種類かありますが、細長い用紙に陀羅尼経が印刷され、くるくると巻かれた巻子本(かんすぼん、巻物)です。
天地幅(本の高さ)は平均5.5センチなので、まさに「豆本」と言えます。
ちなみに『百万塔陀羅尼』は、年代の明らかな印刷物として、世界最古のものでもあります。
聖書、コーラン、陀羅尼など、豆本の始まりはいずれも宗教書だったと考えられます。
(文責/田中栞)